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COLUMN

2023.07.02

新リース会計基準 公開草案のポイント<前編>

はじめに

企業会計基準員会(ASBJ)は、2023年5月2日に、企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」及び「リースに関する会計基準の適用指針(案)」を公表しました。さらに、その他の関連する企業会計基準、企業会計基準適用指針及び実務対応報告の改正案を公表し、2023年8月4日を期限としてこれらに関するコメントを募集しています。
リース会計基準(案)BC12項において記載されているように、開発にあたっての基本方針としてIFRS第16号をモデルとすることとしていますが、すべての定めを取り入れるのでなく、後述するようにセール・アンド・リースバック取引の処理においては、米国の会計基準を参考としています。
また、結論の背景においても、IFRS第16号や米国の会計基準を多く引用しています。
そこで、本稿では、主として借手の視点から、公開草案を読むにあたって理解のポイントとなりそうな事項を国際的会計基準の考え方を含めて出来る限り平易に解説します。
なお、貸手の会計処理については、収益認識及びリースの定義に関する部分を除いて、現行の会計基準である企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」の諸規定が踏襲され、大きな改正は行われていません。

何が争点だったのか

我が国の現行のリース会計基準は2007年に公表されたもので、借手は、ファイナンス・リースなら資産計上、オペレーティング・リースなら費用処理することになっています。その考え方のもとでは、ファイナンス・リースなのかオペレーティング・リースなのかの判断が企業の財政状態に大きく影響を与えるため、実務においては、その分類をめぐって不毛ともいえる議論に多くの時間を費やさなければならないことがありました。
ところが、2016年にIFRS第16号と米国の会計基準(リース(Topic 842))が相次いで使用権モデルを導入し、上場企業では2019年からオペレーティング・リースを含む原則としてすべてのリースを、リース期間に応じて資産計上することになりました。
即ち、特定の資産をリースにより使用する権利を「使用権資産」として資産計上することとしたのです。
最早、ファイナンスなのかオペレーティングなのかの分類で悩む必要が無くなったわけで画期的な変革がなされたと言えます。
国際的な会計基準の成立から7年が経過し、ようやく我が国でも使用権モデルを導入したリース会計基準が導入されることとなりました。
このように時間がかかったのは、財務諸表作成者をはじめ利害関係者にとっていかに大きな問題であったかを表しています。

リース期間の見積もり

IFRS第16号導入時に、原則としてすべてのリースを資産計上するため、会計監査上の論点もなくなったのかと思われました。
しかし、実際にはリース会計の適用対象となるリース又はリースを含む契約を識別する際に必要な判断、及びリース期間を何年と見積もるのかは、依然として実務上の課題として残りました。
リース会計基準(案)第29項では借手のリース期間を以下のように定義しています。

 

借手は、借手のリース期間について、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、次の(1)及び(2)の両方の期間を加えて決定する。

(1)借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間
(2)借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間

 

即ち、使用権資産計上に使うリース期間は、リース契約期間にかかわらず、リースが継続することが合理的に確実と見込まれる期間となるわけです。
ここで、「合理的に確実」とは、どの程度の蓋然性を言うのかが問題となります。

合理的に確実とは

合理的に確実とは、IFRSにおける“reasonably certain”の和訳ですが、IFRSにおいても具体的な記述はありません。
リース会計基準適用指針(案)BC22項では、参考として以下の米国の会計基準の考え方を紹介しています。

 

米国会計基準会計基準更新書第 2016-02 号「リース(Topic 842)」では、「合理的に確実」が高い閾値であることを記載した上で、米国会計基準の文脈として発生する可能性の方が発生しない可能性より高いこと(more likely than not)よりは高いが、ほぼ確実(virtually certain)よりは低いであろうことが記載されている。

 

これを読んでも、「合理的に確実」の蓋然性について明確にはならず、人によって解釈に差が出るかもしれません。
しかし、筆者の感覚からすると70~80%程度の可能性と思われます。

IFRS第16号の導入時には、多数におよぶ賃借オフィスのリース期間を見積もることが課題となりました。
賃借契約期間の多くは2~3年で、本社ビルなど20年以上のケースもあります。
実務的には、進行中の中期経営計画の中で解約や事務所移転が予定されていない場合は、その間は更新されるとみなしてリース期間に含める等の対応をしています。
リース会計基準適用指針(案)では、延長オプションや解約オプションの検討に経済的インセンティブを与える要因を考慮すると記載されています。
例えば、賃借物件に自社負担で重要性のある付属設備を構築した場合など、その耐用年数の間は解約しないかもしれません。
会計的には、資産除去債務の発生時期の見積もりとの整合性をどうするかが課題となるでしょう。
これらを総合的に考えてリース期間の見積もりをすることになります。

以上、リース会計基準(案)、リース会計基準適用指針(案)を理解するためのポイントとして、まずはリース会計基準改正の争点や使用権モデルを導入したリース会計基準の実務上の課題(リース期間の見積もり)について解説しました。
後編では、費用配分の基本的な考え方やリースの要素を含むサービス契約ならびにセール・アンド・リースバックについて解説します。
公開草案を読む上での一助となれば幸いです。

以上