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COLUMN

2023.04.10

IFRS会計基準をめぐる最新動向(その2)第二の柱モデルルール

1.BEPS2.0とは

BEPS(Base Erosion and Profit Shifting/税源浸食と利益移転)による租税回避に対抗すべく開発された行動計画、所謂BEPS1.0はほぼ終了したものの、近年の欧米のIT企業を中心とした課税上の弊害に対応すべく所謂BEPS2.0の検討がOECD等により2018年に開始されました。一般的に従来型の多国籍企業においては、本社所在地国、工場、販売拠点といった恒久的施設のある国等で主要な事業活動を行っています。しかし、IT企業では、本社所在地国と顧客のみが存在する国で収益サイクルが完結するケースも出てきました。従来、各国は恒久的施設が無ければ課税しないとの原則がありましたが、デジタルビジネスの進展に伴い、恒久的施設がない顧客のみが存在する市場国においても、非常に大きな売上をあげることが可能となっており、その生み出された価値に応じて、そのような市場国にも課税権が認められないとおかしいのではないかとの疑問が出発点となっています。BEPS2.0は二つの柱からなる対応策で構成されています。第一の柱は、全世界売上200億ユーロ(約2.9兆円)超かつ利益率10%以上の多国籍企業を対象として、10%を超える超過利益の25%の課税権を広く市場国に配分しようとするものです。2重課税は排除されますので、国と国との税の取り合いになるものと思われ、導入には、尚、紆余曲折が予想されます。第二の柱が現在会計上の影響も含めて喫緊の課題となっているものです。こちらは、国際間の減税競争や過度の優遇税制を防止する為、全世界で最低税率を15%として企業に課税しようとするものです。対象企業は、直近4会計年度のうち2会計年度以上で全世界売上が7.5億ユーロ(約1,100億円)以上の会社になりますので、第一の柱よりもかなり広い企業で影響が出てきます。

2.第二の柱モデルルールとは

第二の柱モデルルールは簡単に言えば全世界で15%のミニマム税率を導入しようとするものです。そこで、もう少し具体的に実務で何が課題になりそうなのかポイントを記載します。

  1. 日本においては、従来からタックスヘイブン税制があり、表面税率で20%未満の国にある子会社等については親会社の所得と合算して、日本で課税することになっています(ただし、外国税額控除は利用可能)。しかし、実体を伴うビジネスを展開している子会社等は対象とならない等の例外が存在しています。しかし、第二の柱モデルルールでは、そのような例外はないので、新たな追加課税が発生する可能性があります。
  2. 第二の柱モデルルールでは、最低税率15%は法定税率ではなく実効税率とされています。その計算式の分母と分子も詳細な規定があり、十分な検討と理解をしなければ15%を下回っているのかどうか正確な判定が出来ません。
  3. 実効税率が15%を下回った場合には、親会社所在国で上乗せ(トップアップ)課税がなされます。日本企業の場合、日本の親会社で15%との差額について追加課税が発生します。
  4. 日本における税制の変更
    日本においては、既に2023年の税制改正大綱に第二の柱モデルルールが盛り込まれ、3月28日の第211回通常国会で2023年度税制改正法案として可決・成立しました。関連する政令等の整備がまだ未了で実際の施行は、2024年4月1日以降開始事業年度からとされていますが、会計上の税効果会計の適用の影響は、それ以前から出てくる可能性がありますので、実務上は、今後出てくる税務会計のガイダンスに十分注意する必要があります。

 

3.2023年3月期決算上の留意点

1.IASBの動向

このように複雑なルールを決算処理または開示するためには、かなりの時間を要するため、特に日本のように3月決算が多い国では、最早間に合わないタイミングとなっているというのが正直なところです。そこで、IASBは、公開草案「国際的な税制改革―第二の柱モデルルール(IAS第12号の修正案)」を公表しています。簡単に言えば、第二の柱モデルルールが法制化されても、その結果生じる繰延税金資産、負債の計上を当面免除することが検討されています。関連する開示事項についても検討されています。例えば、第二の柱モデルルールが法制化された国や地域の開示、第二の柱モデルルールを適用した場合に15%未満となるような国や地域が具体的にあるのかどうか等です。

2.税効果会計上何が起こるのか

日本で税制上実際に課税が起こるのは2024年4月1日以降の利益からです。しかしながら、税効果会計上は、2024年4月1日以降に、現地低課税国で、税務申告書上、加算または減算される見込みの長期の一時差異(インサイド・ベイシスディファレンス)が、2023年3月末時点で存在している可能性があります。もし、存在しているのであれば、2023年3月末でそのような一時差異についてトップアップ税を反映した税率を乗じて繰延税金資産または繰延税金負債を計上する必要があります。当然、そのような計算をするのは非常に時間がかかりますので、IASBでは、例外規定の導入(IAS第12号の修正)を検討していますが、その決定が、3月決算の日本企業が株主総会招集通知を発送する5月中旬までに間に合うかどうかは依然不透明です。仮に例外規定の発効が間に合わなかった場合で、会計処理が間に合わない場合に、会社法の連結財務諸表ではどのような取扱いになるのかは事前に監査法人と協議しておく必要があると思われます。

3.日本企業が準備すべきこと

以上の状況下で日本企業が準備すべきと思われることを記載します。既に対応されている企業も多いと思われますが、まずは、第二の柱モデルルールを正確に理解することが必要です。税務の専門家のサポートは不可欠と思われます。連結グループ内のどの子会社等が対象会社になるのかの分析が必要です。次に、決算実務として、どのような情報がいつまでに必要か、新たな情報収集の仕組みが必要なのか、人材は足りているのか等の検討が必要でしょう。会計上も過去の決算で、既に未配分利益に対する繰延税金負債やタックスヘイブン税制において必要な未払税金を計上している場合には、それらと第二の柱モデルで計上される税効果はどのような関係になるのかの検討も必要です。IASBによる免除規定が発効すれば、実際に会計処理されるまでにまだ1年程度の余裕がありますので、会計の専門家と協議することも必要と思われます。また、会計処理や開示の為の準備も必要ですが、企業の税務コストをマネージする観点から、BEPS2.0を前提としたグローバル税務戦略の再検討と再構築が必要と思われます。その為の、税務コストのガバナンス組織の構築も必要と思われます。